今は、皆が自分に脳があることを知り、そしてその働きを意識しながら
生きています。
そして脳が、神経細胞と、その働きを支える血流や酸素消費によって
活動を続けていることを知っています。
そして知っているだけではなく、その仕組みを理解して、
より良い脳の働きを引き出そうとしています。
■■■ 「大発見だっっ!!」 ■■■
今から20年前の1991年、Dr.KATOは「国立精神神経センター」という
国の直轄機関である研究施設で、脳の研究を行っていました。
それまでずっと小児科で寝る間もなく奮闘していたDr.KATOにとって、
研究に没頭できる時間を与えられて、
ドキドキ・ワクワクの日々を送っていました。
1991年6月までDr.KATOが勤務していた新生児集中治療室(NICU)を
完備した大病院の小児科では、まさに寝る間もない診療に
追われていました。
「小児科診療では、子どもがどこが痛い、悪いと表現する事なく、
あっという間に重症化するから、入院患者を持ったら目が離せない」
とDr.KATOは言います。
1か月に家に帰ったのはほんの数回、それも着替えを取りに
戻っただけで、家でゆっくり休む間もなかった日々を送っていました。
出産前に既にリスク児と分かっている場合には、分娩室で待機し、
生まれたばかりの未熟児を受けとって、NICUに駆け込む。
脳に疾患がある子のMRIを繰り返し撮影し、病状の変化と共に
日々変化していく脳の様子を見るにつけ、
「ベッドサイドで、もっと簡単に脳の働きを把握できる方法はないか」
と考えながら、子どもの脳死や脳の発達を研究していた最中で
決まった移動でした。
その思いを叶える発見は、神経センターに着任してわずか1~2ヵ月後に
実証されました。
浜松ホトニクスという医療機器メーカーの酸素モニター装置が
置いてあるのを研究室で見たDr.KATOの脳裏には、
「これだ!」という閃きが走ったと言います。
そして20年前の1991年、自らのアイディアを確信し、
研究室に響いたDr.KATOの「大発見だっっ!!」という言葉とともに
NIRSという脳血流による脳の活性化モニターが誕生しました。
そしてそれは、脳科学の中の“脳血流の時代”の始まりを
告げた号令であったのでした。
■■■ 1990年代~2000年代の脳血流の時代 ■■■
1991年にNIRSが発案されたのとほぼ同時期に、
MRIの技術を応用した「機能的MRI(fMRI)」が誕生しました。
NIRSとfMRIは、装置としての原理が異なるものの、
いずれも脳のはたらきに伴う血流の増加を観察する手法として、
脳科学の分野で広く用いられるようになりました。
今では、年間数千を超えるそれらの論文が発表され、
どんな状態で血流が増えるのか?という疑問に対する知見が
積み重ねられてきました。
しかし脳血流を追い続けた20年もの間、
その知見が積み重ねられたにも関わらず、
医学や新技術に役立つ技術や発見に至らなかった分野であるという事実が
ここ数年で浮き彫りになってきました。
装置を使えば何らかの結果が出て来るため、論文は量産されますが、
どんどん前進しているかに見えたこの分野の成果は、
医学やその他の分野に革命的な貢献をすることはありませんでした。
なぜだろう・・・?
論文の本数や偉大な賞にこだわらない、本当の科学者ならば、
「見ていた窓が違ったんだ」ということに気が付きます。
もちろん、この20年、「血流ではダメだ」と主張してきた科学者は
世界にも存在しました。
しかし科学には少数派がつきもので、
東北地方に巨大地震が来ると予測していた少数派の意見が無視されて
いたように、
血流という自然科学を覗く窓の危うさに警鐘を鳴らしていた人々は
少数派として、脳血流の波にのまれてきたのです。
■■■ 2010年代からの脳酸素の時代 ■■■
大多数派は、無視してきた少数派の予見が的中して、
未曾有の巨大地震が起こった時、口をそろえて「想定外だった」と
科学の未熟さを主張します。
湯川秀樹の「真実はいつも少数派」という言葉は
まさに科学の真髄をついた名言です。
「科学はいつも正しい」と誤解している日本人にとって、
この言葉は理解しにくいかもしれません。
しかし科学者も人。勇気をもって少数派に足を踏み入れて
援助を受けにくい研究生活を送れる人は多くはありません。
脳科学のNIRSやfMRIを使っている科学者の大多数派は、
この20年、脳血流の窓を覗いてきました。
その窓から脳の中を見れば、そこに真実が見えているような
気がしたからです。
しかし少数派は、別の窓を探そうとしてきた20年でした。
少数派は群れを成して派手な結果を主張することよりも、
ただひたすらに、自分の見ている窓から見える景色が
昨日よりも真実に近づいているかどうかを絶えず自分に問いかけます。
Dr.KATOは、酸素という窓から脳の真実を捉えようとしている科学者です。
そして、脳血流をすべて否定するのではなく、
酸素が血流に乗って脳へたどり着くメカニズムから、
その両者の調節関係をきちんと評価することで、
より脳のはたらきの神秘に迫ることができると考えています。
世の中には、色々な角度から物事を検証する科学があります。
それらは互いに相容れないものではなく、補い合って、
全体論として統一される日が来るのを待っているのでしょう。
この20年、蓄積された脳血流の知見は決して無駄なものではなく、
これからの新しい窓から見た知見と組み合わさることによって、
次のステージへ進むための材料になります。
12月11日は、その次のステージへ進みたい人たちが集って、
これからの10年、20年の脳の捉え方を学び合う場です。
Dr.KATOだけでなく、20年前のNIRS発見を報告した論文の共著者が
それぞれ20年前にどんな感覚をもっていたのか、
20年後の今、何を見据えているのか、そして最新の技術は何なのかを
分かりやすく提示し合って、次のステージへ向かう準備を整えます。
――参考――――――――――――――――――――――――――――
※この内容は、12月11日に行われる
「脳の健康医療セミナー2011」の下記の講演で紹介されます。
I.脳機能NIRS誕生 20周年記念講演
演題:脳機能NIRS研究のプロローグ
講演:高嶋幸男先生
演題:脳機能NIRSイメージングの誕生からCOEへの発展
~1991年からの出発~
講演:加藤俊徳
ぜひ貴重な講演を生でお聞きください!
http://www.nonogakko.com/research/brf2011.html
――――――――――――――――――――――――――――――――