60秒で解説!本当に脳に効く本とグッズの選び方
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1 今日の一冊 ~イチローの脳を科学する~
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「脳の本がありあすぎて、どれを読んだらいいのか分からない」
「○○脳って、最近よく聞くけど、そもそも本当なの?」
皆様からお寄せいただく、そんな疑問にお答えします。
話題の脳グッズや新著のご紹介や、名著と言われる書籍のご紹介に加え、
Dr.KATOからのコメントを掲載いたします。
本当の「脳」サイエンスの視点から、
皆様の生活に役立つ情報だけを、社会から抽出することを目指します。
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今日の一冊
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イチローの脳を科学する-なぜ彼だけがあれほど打てるのか-
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著者:西野仁雄
出版:幻冬舎新書(2008)
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どうしてイチローは偉大な成績を打ち立て続けられるのでしょうか?
イチローのイチローたる所以を、脳という観点から見てみようという一冊。
ちょうど今年は球宴前に300本安打の達成が見込まれていただけに、
この本を読むには絶好の時期かもしれない。
筆者は医師や研究者の立場で解説する一方で、
もともと野球をしていた経験があり、イチローの父と親交があるそうで、
野球の専門用語などはないし、野球に詳しくない人でも十分に理解でき、
イチローのすごさに改めて感心してしまう。
試合で見せるイチローだけでなく、普段の習慣や、幼少期のトレーニング、
父の努力など、脳の本だとは思えないほど、イチローいついて詳しく知れる。
もちろんそれは、これまでのイチロー本からの抜粋だったりはするのだが。
しかし著者とイチローの父が直接話した内容などは
この本でしか知ることができないだろう。
ただし、物足りなさと言えば、
脳の話はすべて一般論でしかないことだろうか。
「イチロー」という唯一無二の世界的なプレイヤーを論じるのに
脳解説は個人を扱ってはいないし、紹介されている脳科学の知見の多くは
ラットやサルの動物実験の論文から引用されている。
これは脳科学分野の未熟さとも言える。
イチローという強烈な個体の特徴を論じたいのに、
ネズミの実験しかない、これではイチローの脳のすごさは伝わらない。
やはりイチローの脳を知るには、イチローの脳を見なければ分らない。
だけれども、イチローの脳を理解しようとすること、
未熟な脳科学分野から発信されるメッセージとしては、
これだけでも進歩的なメッセージなのかもしれない。
また、著者独自が展開する脳と心の所在についての話や、意識と無意識の話、
環境とDNAの話などは、読み物的な要素が強く、あまり説得力はない。
本書の読み応えとしては、イチローの実際の練習の様子を知ることで
彼の脳形成に思いを馳せることができるところにあるだろう。
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┃脳に効くポイント
脳科学的に正しく、また進歩的なメッセージとしては、
脳が変わるということを前提にしていることである。
ご存じの方もいると思うが、脳には「臨界期」があると信じられてきた。
臨界期とは、たとえば3歳で脳が決まるといったような、
言わば期限付きの発達の概念である。
しかし今では、臨界期説は否定され、脳は成人しても発達することが
分かっている。
本書では20歳過ぎで脳が完成すると言っており、
イチローの脳もその頃完成されただろうという記述があるが、
第1号でも紹介したが、実際には40代くらいまでは発達が続き、
部位によってはそれ以降も伸び続けることが確認されている。
未だ大記録を残し続けるイチローの脳は、まだまだ発達過程にある。
だが、著者の言うように、野球選手としての脳の基礎は
幼少期からプロ入り2年目までの2軍の時期を経て作り上げられただろう。
イチローは小学生のころから365日のほとんどを厳しい練習をして、
脳が作られていった。
それを読者に知らせることで、イチローほどではないにしろ、
誰もが心の持ち方で脳を創りかえることができるということを
第一のメッセージとしている。
逆に、イチローのマネできないほど習慣化された体の動きや練習法や
儀式的な食事の取り方や身支度など、
イチローらしさが行動的に見て取れる分、それが脳の育成に
どのように役立っているかは本書ではさほど触れられていない。
しかしこの考えられないほどの習慣化は、
イチローの脳の酸素交換に影響しているのだろう。
もちろん、本人の脳を計測したわけではないから推測だけれども、
神経細胞の酸素消費エネルギーは非常に大きい。
だから過度な酸素消費が長時間続くと、疲労が蓄積するし、
いつもなら簡単にできることもパフォーマンスが下がることもある。
特に初めてのことに関して、脳は大きな酸素消費を伴う。
イチローが少し脅迫的なほど行動を習慣化するのも
もしかしたら、そうすることで余計なエネルギーを使わず、
最高のパフォーマンスを維持できることを
体験的に知っているからかもしれない。
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┃Dr.KATOに聞く!
野球選手、特に名バッターと言えば「動体視力」と呼ばれる、
動いているものを捉える視覚能力と、それに伴う運動計画力、実行力が
一般人よりも育っているだろうということが容易に推測できます。
しかしイチローのすごさは、150キロの速さで動くボールを
的確に捉えられることばかりではないようです。
「選球眼」。
本書によれば、イチローの父・宣之氏が必要と考え、
イチローの幼少期から取り入れた練習メニューの末、
身につけた能力であると言います。
この選球眼とは「打つべき球を瞬時に選定し、必要な時にバットを振る」
という行為を成功させる、ボール判定視力といったところでしょう。
ストライクなら振る、フォアボールなら振らないということです。
ボールは、ものすごい速さで自分に向って飛んできます。
それを瞬時に打ってもいい球かどうかを見極め、
打つと決めれば、必ずヒットにつながる当たりを生み出すのは
至難の業です。
プロで活躍し続けるには、1球できたとしてもダメです。
それを何年間も持続し続けなければなりません。
この瞬時の判断能力と、それに伴う運動計画や運動実行の微調節能力は
並大抵のものではないでしょう。
幼少期からお正月以外は一日も休まず練習するという持続力と、
毎日毎日多くのボールを見て、判断能力を養うことによって得た
選球眼とバッティング能力を、脳に得たということです。
イチローの脳育成のレベルの高さをうかがい知るとともに、
父宣之氏のコーチング能力の鋭さに感服します。
近年では、脳研究の一環として、ロボットにバッティングを
させようという研究所が実際にロボットを製作させていますが、
その結果として分かったことは「ボールを見なくてもボールが打てる」
ことだそうです。
ロボットにはヒトのような視覚機能はありません。
ですから小脳という運動に関連する部位のプログラミングをロボットに
埋め込んで、飛んでくるボールにバットを当てるという学習実験を
行っているのです。
小脳があればボールを打てるのだということでしょう。
しかし、イチローはボールを見ています。
イチローだけでなく、優秀なバッターは、打つギリギリまで
ボールを見続けると聞きます。
ここにも現実世界と、社会から隔絶されたラボの中の脳研究の
対峙が見え隠れしています。
本当の意味でイチローの脳を科学できる脳研究の水準に
科学界全体がはやく到達したいものです。
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